時差により病的に眠い<NY – Day 02>

ニューヨークは札幌よりも寒いと聞いていたので、ユニクロで衣服を幾つか買い足し、自分の思いつく限りの寒さ対策をして渡米したのだが、その準備の意味はなかったと、この二日目に結論づけることになる。

外気は札幌よりも断然暖かい。そして、家の中もまた暖かい。一日目に感じたそれは、二日目においても同様だった。むしろ、厚着をしすぎて気持ち悪くなるくらいだった。よって、いつも札幌で着ているような薄手の白いシャツにデニムのスカートという出で立ちで二日目を過ごすことにした。滞在先のご家族からは薄着であることを心配されたが、非常に快適である。

この滞在2日目は、Noriさんのお知り合いの方のトリオのレコーディングがあるということで、午後からそれを見学する予定になっている。その前に、家の周りを散策しがてら近場のコインランドリーに行った。奥さんに頂戴した手書きの地図を片手にコインランドリーらしき建物に辿り着く。OPENという札のぶらさがった銀色のドアを開けると、殆ど洗濯機は埋まっているような状態だったが、ひとつだけ空いていた。その洗濯機の前に立って使い方の書かれた文字板をみるが、なんとなく使い方は読み取れたものの、肝心のコインはいくら必要で、洗剤はどうすればよいのかが書いていない。これは困ったと思い周囲を見渡してみると、ドレッド頭の黒人女性が椅子に腰掛けて洗濯物の洗い上がりを暇そうに待っていた。これは聞いてみよう。いやむしろ、聞いてみるしかない。

拙い英語で彼女に話しかけると、わたしの言わんとするところを汲んでくれたようで、ともに洗濯機の前に立ってあれこれと親切に説明してくれる。コインは25セントが複数枚必要だということで、両替も手伝ってくれた。しかしコインがなかなか機械に入ってくれない。すると、近くにいた老婦人が見るに見かねて、強引にコインのスロットを押してくれた。そうすると、コインは無事に機械に飲み込まれていった。しかし、それから数秒が経過したものの、今度はコインを入れれば始まるはずの洗濯が始まらない。戸惑っているとまた老婦人が登場し、穏やかな風貌とは裏腹に機械の蓋をえいやと力強く押す。すると、水が流れ出し、洗濯槽が回転を始めた。無事に洗濯が始まったようである。

椅子に腰掛け、隣に座る黒人女性が口ずさむ小さな鼻歌のようなものを聞きながら待つこと30分、機械が止まったところで衣服を取り出すものの、それには湿り気があった。そのとき、使っていた洗濯機には乾燥機がついていないことを知る。のちに乾燥機は別の機械であることを知るのだが、その瞬間はこのまま持ち帰るしかないと思い込んでしまった。しかし、滞在先にはもう干すところがないと聞き及んでいる。その時わたしは思った。ここはやはりS字フックしかない。

S字フックをご存知だろうか。もちろん鼻フックの進化系ではない。Sの形をした、何がしかのものを引っ掛けるために生産された金属製のフックである。これはわたしが海外に行く際に必ず持っていく便利グッズで、ホステルで洗濯物を干す際は大概それに適した場所がないので、二段ベッドの柵などにこのS字フックをぶら下げて洗濯物を干すのである。寝泊りさせてもらっている部屋の天井に細い管があり、その管と天井の隙間にS字フックをかければ十分に洗濯物が干せることは予め確認していた。多分そんなことをするのはわたしくらいしかいないだろうが。

ランドリーを後にし、部屋に戻ってS字フックの大活躍にて洗濯物を干し終えると、今度は駅前の散策に向かった。お土産の物色のためである。昨日連れて行ってもらった界隈のスーパーマーケットを回る。娘ちゃんおすすめのナッツバーとロシア系スーパーマーケットで目にしたピスタチオのチョコレートを購入する。その道の途中、駅前の近くで大きなウッドベースを持った日本人らしき二人組を見かける。ひとりは関西弁を口にしており、もしかしたら今日レコーディング予定のトリオの方々なのかもしれないと思いながらも、ここで声をかけても変な人だと思われるだろうなと思い、傍を通り過ぎる。帰る頃には小雨がぱらつき、コートのフードをかぶって帰路についた。

滞在先の家に戻ると、録音予定のトリオのお三方が集合しており、案の定さきほど見かけた男性二人もその中にいた。ご挨拶をさせていただき、居間で行なわれた演奏前の歓談に同席させてもらう。腰の柔らかい明るいお人柄の皆さんで、たまたま同席しているだけのわたしにもとても優しくてありがたい。お話がひと段落したところで、いざレコーディングに突入した。

しかし、そのときのわたしは時差のためか強烈な眠気と疲労感に襲われており、寝室として過ごしている部屋から音を漏れ聴くことしかできなかった。ベッドの上に横たわり、寝ては覚めを繰り返して、それとなく演奏や話し声からレコーディングの様子を伺った。軽快で鮮やかなジャズのトリオ演奏を耳にしてうつらうつらとしているのは、とても幸せなことでもあった。数時間ほどそういった時を過ごして、体調の回復の兆しが見えた頃に、ちょうどミックスを見学させていただくことができ、辛うじて本日の責務の一端を完遂した。

その後、食事とともにお酒を嗜み、奥様にはたくさんのお話につきあっていただく。人は話す内容よりもどう話すかを見ているとはよく言ったもので、彼女のお話の内容もさることながら、その話し方から、強くて優しくてとても素敵な人なんだなと感じた。わたしも誰かにそういう気持ちを与えれる人になりたいな。

夜半に差し掛かり、ずっとお付き合いいただくのも申し訳なくて居間をあとにしたわたしは、最終的に寝室にて残り4センチのワインを飲みながら、酒の染み渡るぐらついた頭で明日以降のことを考えていた。それから、3月の自主企画ライブのことも思い出したりして、ニューオリンズの滞在中に譜面と音源をあげるしかないとかなんとか思案を巡らしていた。慣れない環境のせいというよりも、昼寝をしてしまったからに他ならないが、なかなか眠りにつけない。日本時間は何時だろうか。昼の15時ころだ。ラーメン食べたい。スープカレー食べたい。焼き鳥食べたい。帰国まで我慢。そうこうしているうちに、静かな眠りに吸い込まれていった。

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